ミタブログ

鑑賞、読書、たまに観劇

0007 映画 #この世界の片隅に in 渋谷ユーロスペース。"裏打ち"が刺激する戦争へのイマジネーション

映画が好きな作文です。

この世界の片隅に」を見てきました。

まずは予告編をどうぞ。

▼概要はこちら(公式サイトとYouTube予告動画の説明文より)

ものがたり

18歳のすずさんに、突然縁談がもちあがる。

良いも悪いも決められないまま話は進み、1944(昭和19)年2月、すずさんは呉へとお嫁にやって来る。呉はそのころ日本海軍の一大拠点で、軍港の街として栄え、世界最大の戦艦と謳われた「大和」も呉を母港としていた。
見知らぬ土地で、海軍勤務の文官・北條周作の妻となったすずさんの日々が始まった。

夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しく、その娘の晴美はおっとりしてかわいらしい。隣保班の知多さん、刈谷さん、堂本さんも個性的だ。
配給物資がだんだん減っていく中でも、すずさんは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。

ある時、道に迷い遊郭に迷い込んだすずさんは、遊女のリンと出会う。
またある時は、重巡洋艦「青葉」の水兵となった小学校の同級生・水原哲が現れ、すずさんも夫の周作も複雑な想いを抱える。

1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの数の艦載機による空襲にさらされ、すずさんが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして、昭和20年の夏がやってくる――。

原作:こうの史代この世界の片隅に」(双葉社刊)
監督・脚本:片渕須直

声の出演:のん 
細谷佳正 稲葉菜月 尾身美詞
小野大輔 潘めぐみ 岩井七世 / 澁谷天外

企画:丸山正雄
監督補・画面構成:浦谷千恵 
キャラクターデザイン・作画監督松原秀典
音楽:コトリンゴ
プロデューサー:真木太郎

製作統括:GENCO 
アニメーション制作:MAPPA 
配給:東京テアトル

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©こうの史代双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

クラウドファンディングで約4,000万円を集め、公開前から話題の本作。主演は女優・のんさん。詳しくはこちらをどうぞ。

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渋谷ユーロスペース18時30分の上映回で見てきました。このブログでは「オーバー・フェンス」に続き2回目のユーロスペースです。 

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ユーロスペースは自由席。チケット購入時に整理番号が付されていて(この日は29番でした)、5番ずつ呼ばれて上映室に入ります。2番スクリーンは100名ぐらい入りそうな広さなので、整理番号が後ろのほうでも比較的いい席に座れることが多いです。

わたしは右側中断の一番中央よりに座りました。公開後、まだ数日しか経っていない状況ではありましたが、全国大規模上映をしている作品ではないのに7割ぐらいの座席が埋まっていて、想像しているより混んでいる印象でした。

年齢層は10代20代は少なめ。30代40代が多い印象(実際に聞いて回ったわけではないから、あくまでも見た目年齢ですよ)。友人や夫婦の2〜4人組で来場している方々が目立っていました(これもわたしが一人で見にいくタイプだから、余計に印象に残っている可能性が多分にあります。孤独になると人の幸せを見つける感度が高まりますね)。

座席や足場の感覚は「オーバー・フェンス」の時に紹介したので今回は割愛。代わりに上映室以外の環境をご紹介します。まずはトイレ。ユーロスペースのトイレは照明が明るい。なので、暗い映画を見た後でも寄るのが怖くありません。その代わり、建て付けが悪いのかドアが閉まり切りません(男性トイレが開いている)。思いっきりおならをすると外まで響く恐れがありますからご注意を。

他には自動販売機が設置されています。コンビニで買うのと同じ感覚で購入できる価格設定になっています。映画館によっては1本200円という場所もあるので、コンビニで買ってから入場しないとなんか損した気分になることもありますけど、ここでは気持ちよくその場で飲み物を買えます。わたしは映画を見る時、上映中に必要なものはなるべく劇場で買って、お金を落として帰りたいと思っているので、変に金額を盛っていないユーロスペースは好きです。


さて、映画「この世界の片隅に」ですが、この作品はいわゆる「みんなが当たり前のように知っている戦争」の外にある戦争を描いた物語でした。広島県呉市という、原爆を落とされた広島市とは山を隔てた隣の村に嫁ぎ、戦時下の日常を過ごすのんさん演じる・北條すずを通して、歴史の外にある一般的な戦争に焦点が絞られています。

序盤で北條すずの戦前の暮らしぶりが描かれ、中盤にあるアクシデントですずの心境が変化、そしてそれでも生きていく終盤のすずへとつながっていきます。わたしが見た回の他の鑑賞者もそうでしたが、鑑賞後に涙が止まらなかったという人も多いのではないでしょうか?

かくいうわたしはこの映画を一言で「ハウスだ!」と思いました。ハウスというのは、音楽の一ジャンルです。音楽は一般的にテンポを表でとりますが、ハウスは裏で取るのが基本。ズッチッズッチッの「チッ」が裏です(説明がわかりにくいかも)。TRFのSAMさんがクラブでよく踊っていたのがハウスです!(余計にわかりにくい説明ですみません)。

拍子を裏で取ることを"裏打ち"というのですが、「この世界の片隅に」はまさに"裏打ち"で描かれた作品。わたしたちが義務教育で習うような国家単位の戦争や甚大な被害を受けた場所の写真を通して知るような戦争とは異なる、郷土史や私記で残る戦争を徹底的に物語化していました。

これは映画に関わらず物語作品全般にいえることではありますが、ある一つの伝えたいメッセージを受け手に届けるためにクライマックスに向けて走っていくのがストーリーの王道です。そのとき、物語は世界観や登場人物の関係性などクライマックスシーンに向けて受け手が知っておくべき各要素を順を追って捉えていきます。表打ちでテンポを取った場合、受け手はその表に描かれた要素のみを受け取って、集中してクライマックスシーンにのめり込んでいけるのですが、この作品は裏打ちでクライマックスシーンに進むため、伝えたいメッセージも裏打ちの中に込められます。ただし、見ている人は表打ちの出来事を知識として得ているため(それは教育や今まで描かれてきた戦争映画の記憶)裏打ちだからこそ表の物語を脳内で補完していける。その受け手の中に広がる、既存の物語が作品に物語の厚みを与えることになる。それがこの作品をより魅力的にしていると感じました。

また個人的には、特にすずが敗戦の玉音放送を聞いたあとに叫んだセリフが心に響きました。あのセリフは戦争だけに関わらず、命と向き合ったことがある人なら「そうだ!そうだ!」と思えるものだったのではないでしょうか。わたしの場合は母が肺がんになり、余命3ヶ月と伝えられて入院生活を送った時の気持ちを思い出しました。余命を伝えられると、周囲の人間は無意識のうちに当人を殺します。ですが、当人は余命を聞いたところで「生きたい」と思っている。だから、わたしはその当人と一緒に治ることを信じてお見舞いに足を運びました。だから、あのすずが叫んだセリフがわたしにとっては「治ってほしいと思ってお見舞いしているんじゃないのかよ!(いや、治らないと思っている。だったら最初から死ぬと思っているなら治るような顔してお見舞いしにくるんじゃねえ!)」といった二重の意味で響いてきました。

映画表現の話に戻しますが、「この世界の片隅に」では"裏打ち"をストーリーだけでなくエモーショナルにも適用していたように感じました。戦争中、嫌な気持ちを抱くことはとても多かったと思うのですが、そういう戦争による嫌な気持ちには極力フォーカスしないで、あくまでも戦時下の日常のエモーショナルが徹底的に描かれていました。そのため「じゃあ、どこで感情が爆発するのだろう?」と思っていたのですが、すずに起きたアクシデントのあとにその感情の爆発が起きるんですね(すずが叫んだセリフも、その感情の爆発を経たあとのシーンとして描かれています)。この感情の爆発の描き方だけが、表打ちのビートの取り方だったんです。正直、すずが戦争で失ったものは身に起こった出来事を通じてだけでわたしは察しがつきました。だから、その後の日常を描くことで何が失われたのかをこちらに伝えていくものだと思っていたのですが、そのメッセージをこのアニメはセリフとしてこれでもかというぐらいにぶっこんできます。わたしはこのぶっ込み具合に「ここまではっきり明言してあげないと、今の鑑賞者たちは物語からメッセージを受け取ることができないのだろうか」という問いを得ました。

表現には常に時代性が伴います。現代は物語をただ受け取るだけでなく、SNSを代表するようにコミュニケーションによって解釈していくのが一般的です。だからこそ、コミュニケーションの発端になる、なんらかのメッセージがはっきりと言葉化されていないと物語が受け手に届かないのかもしれない。わたしの場合は、そのような「言われなければわからない」という現代性に対して「もっと察しがよくならないのかなぁ?」と常日頃から思っていて、仕事でもそういう意識で記事を書いてきました。どうやったら、もっと察してもらえるのか表現手法を知りたくて、いろんな作品を見に行っています。そういう意味で「この世界の片隅に」は衝撃作でした。やっぱり言わなければいけないのかもしれないと。

ただの戦争映画にとどまらず、歴史が取りこぼしてしまいそうな、ごくありふれた人々にとっての戦争を物語化することに成功しながらも、現代における表現とは何かという問題提起もしている。「この世界の片隅に」はそんな作品だと思いました。

追伸

能年玲奈さんだった頃と同じく、のんさんの声は耳を惹きつける魅力的な音でした。「あまちゃん」で能年玲奈さんファンになった方でもきっと楽しめる映画ですよ。主題歌の効果もあって戦争映画だとかしこまって足を運ばなくていい、戦争ジャンルの映画だと思って見にいき、いろんなことを感じたい方々に薦めたい作品です。


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