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ミタブログ

鑑賞、読書、たまに観劇

0002 映画 #オーバー・フェンス を見た人と共有したい感想。今年度いちばんよくできた傑作!

映画が好きな作文です。

「オーバー・フェンス」を見てきました。

まずは予告編をどうぞ。

 ▼概要はこちら(公式サイトとYouTube予告動画の説明文より)。

Story

家庭をかえりみなかった男・白岩は、妻に見限られ、
東京から故郷の箱館に戻りつつも実家には顔を出さず、
職業訓練校に通いながら失業保険で暮らしていた。
訓練校とアパートの往復、2本の缶ビールとコンビニ弁当の惰性の日々。
なんの楽しみもなく、ただ働いて死ぬだけ、そう思っていた。
ある日、同じ職業訓練校に通う仲間の代島とキャバクラに連れて行かれ、
そこで鳥の動きを真似る風変わりな若いホステスと出会うーー。
名前は聡(さとし)。
「名前で苦労したけど親のこと悪く言わないで、頭悪いだけだから」
そんな風に話す、どこか危うさを持つ美しい聡に、白岩は急速に強く惹かれていくが……。
自由と苦闘のはざまでもがく女の一途な魂にふれることで、
男の鬱屈した心象は徐々に変化していくが、
それでもままらない時間を過ごすしかない一組の男女。
そして孤独と絶望しか知らなかった男たち。

美しく壊れかけた男と女が
フェンスの先に見つけるものはーー。

2016年9月17日(土)テアトル新宿他全国公開
映画『オーバー・フェンス』本予告

出演:オダギリジョー 蒼井優 松田翔太
   北村有起哉 満島真之介 松澤匠 鈴木常吉 優香
監督:山下敦弘マイ・バック・ページ』『味園ユニバース
原作:佐藤泰志「オーバー・フェンス」(小学館刊「黄金の服」所収)
脚本:高田亮
音楽:田中拓人
制作プロダクション:ツインズジャパン
配給宣伝:東京テアトル 
北海道配給:函館シネマアイリス

©2016「オーバー・フェンス」製作委員会
http://overfence-movie.jp

 本作は故・佐藤泰志さんの同名小説に、小説『黄金の服』のエッセンスを取り入れて脚本化されました。佐藤さんの小説を原作とする"函館三部作"の最終作です。詳しくはこちらをどうぞ。

函館3部作最終章「オーバー・フェンス」 山下敦弘監督「小さな希望が救いに」

ユーロスペース19時5分の上映回で見てきました。

1時間前にチケットを買い整理番号1番だったのですが、時間つぶしにガストで夕食を摂り仕事のメールを返信していたら時間をとられてしまい、6分(開始1分後)に入場したため最後部から一つ前の座席(左側)に座りました。ユーロスペースは自由席だから一番いい場所に陣取ろうと意気揚々で行ったのに。

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本作自体は9月17日(土曜)に公開されていたのですが、まだ席が3割ほど埋まっていました。ユーロスペースの入っているビル・KINOHAUSには映画美学校も入っているためか、若者から年配まで客層が広かったです。

わたしが座った後ろから1つ前の列の左側には4席ありましたが、わたしの他には誰もいなかったので足を組んで体を横に傾けながらゆったり鑑賞できました。前の座席との距離感的に足場は少し狭い印象。わたしはおそらく日本人の平均より足が短いので、標準的な足の長さの人でも足を組むにはちょっぴり窮屈かもしれません。座り心地は悪くないので、落ち着いて鑑賞できます。上映中は消灯しても若干明るいため周囲の人の顔はスクリーンから照射する薄明かりではっきり見えます。

ユーロスペースは、メジャーよりもインディー系映画が多く公開される映画館なので、シネコンでは見れない作品に出会うことができます。この日は本作終映後に上映された映画が最終日だったのか、もしくはこの日限定公開だったのかで、関係者のような人たちがたくさん集まっていました。マスメディアを通しては普段自分が見聞きすることのない作品にもちゃんと人が集まっている様子を見ることは、映画好きなら悪い気がしないはず。自分の人生とは関わることがなかった作品に対しても、ちゃんとそれを愛してくれる人たちがいることを目の前で体感できるのも、ユーロスペースの魅力の一つです。


さて、映画「オーバー・フェンス」ですが、まだ2016年度を五ヶ月も残しているのに今年度わたしが見た中でいちばんいい作品になるのはこれに違いないと感じました。本作では、職業訓練校という「大人が社会に向けて再出発を果たすために集まる場所」で大工仕事を覚える40代バツイチ独身・白岩義男(オダギリジョーさん)が、キャバクラのキャスト・田村聡(蒼井優さん)との交流により、生きる意欲を取り戻していく過程が描かれています。

序盤では日常を穏便に過ごす白岩が映し出され、中盤にその白岩が聡との交流によって自分自身と向き合わざるを得なくなり、その後、自分なりの答えを見つけた白岩が終盤で日常へと戻っていく。全編通じて映画を無理やり盛り上げるような装飾的演出はなかったので、映画館の座席に深く腰掛けてゆったり鑑賞できた方が多いのではないでしょうか。

かくいうわたしは必要最小限のセリフで紡がれていく物語や、文学的表現と呼ぶにふさわしい映像手法、場面転換に使われる気の利いたギミック、ラストシーンの潔さなど、この映画の作り方に現れるプロフェッショナル性にのめり込む一方で、人間の弱さに焦点が絞られた作品のテーマ性に心を奪われていました。鑑賞途中から、今年いちばんの秀作(良作、傑作)に出会うことができた自分の運を褒めてあげたくなりました。ラッキーに感謝いっぱい。

映画に限らず、今「作品」と呼ばれるもの全般には、ある一定の閾値を含んでいるのかいないのかが問われているように思います。作り手が、作品のみで勝負する潔いスタンスを取っているのか、作家性(つまり個人が社会とどう関わるのか)を意識してコミュニケーションで勝負するスタンスを取っているのかで、鑑賞者は作品の受け取り方を器用に使い分ける必要があります。

それは映画で言えば、スクリーンに投射される映像内で物語が完結されているのか、逆に映像外から別のエピソードやコミュニケーションを持ち込むことでストーリーが結合されていくのか、という違いに大きく現れていて、前者はいわゆる伝統的な映画だと受け取れますし、後者は応援上映向きの新しいコンテンツだと捉えられます。それだけ映画の楽しみ方が幅広くなってきている現代で「オーバー・フェンス」は前者の系譜をしっかり踏襲している、これぞ映画だと思いました。だから、昔からの映画好きにとって良い作品だと思います。

どこが良いのかというと、例えば昼と夜の使い分け。白岩は昼間、職業訓練校に通っているわけですが、ふつうの学校とは異なり、ある種、社会に受け入れられなかった人たちが通う象徴としてこの場所は設定されています。なので、通う人々はそれぞれ胸の内に抱えるものがある。それを気兼ねなく言葉に出せる周囲の中で、自らのことを多く語らない白岩の対比が序盤から描かれていました。そんな社会から閉じた状態の白岩が聡と出会う夜に足を踏み込むと、聡の真っ直ぐな目を通して裸にされていきます。そして白岩の感情がむき出しになる。このままでは元の昼に戻るしかないかもしれないところまで白岩は反感を覚えるのですが、聡の誘いのおかげで、聡との昼を介して別の昼間へと戻っていくことができる。

この昼と夜に重ねて、フェンスの内側と外側という舞台設定も用意されています。これが奥行きの深い世界観を生んでいます。職業訓練校は内側の世界。キャバクラは外側の世界。聡の離れは、白岩にとって外側だけど聡にとって内側だった。そのあとに二人にとって外側の動物園に場面は移り、白岩がまた内側の職業訓練校に戻っていく。その内側に聡を招いた白岩が、出入口とは異なる「オーバー・フェンス」を果たして、新しい外側へと再出発を果たす。

そんな「光と闇」の越境を二人で果たす過程に寄り添うようにして、周辺のキャラクターたちの素性も明かされていきます。見る側は、みんなそれぞれ固有の影を抱えながら生きていることを知るのですが、この作品のいいところは、そんな周囲に対して白岩は特に何かアクションをとるわけではないことです。それって、どんな人生だとしても生きていくことには変わりないということを白岩や職業訓練校に通う人たちは言わずもがな知っているということですよね。

もちろん白岩のように影から脱する一歩を踏み出せることは明るい兆しだけれど、それだけが人生じゃない。映画が人生の陰影を物語として全て解決してしまおうとしていないことが、この作品に弱さに対する優しさを残していて、とても好感を覚えました。例えば鈴木常吉さん演じる勝間田憲一が職業訓練校の先生に言い放った一言(通じなかった一言)にも優しさが表れていましたよね。そんな優しさを描きながらも、優しいだけでなく白岩がちゃんと一歩踏み出せるようになるという、社会と向き合うための「奇跡」も描かれている。これを良作(傑作、快作)と呼ばずして何を映画を見るものさしにしたらいいのでしょう。それぐらい好き。

わたしは、映画というのは嘘をつくことを一回に絞ることで作品化を果たすものだと思っています。そんな映画を映画たらしめる大事な嘘が、この作品ではラストシーンの白球の行方に託されていて、しかも「オーバー・フェンス」を感じさせる明るい嘘になっていました。白球がどうなったのかは鑑賞者の想像に委ねられていることを含めて、本当に素晴らしい。いい映画はエンドロールの時間が余韻を味わう空間に仕立てられていますが、いい余韻にたっぷり身を任せてから劇場をあとにすることができました。

追伸

蒼井優さんの素晴らしい演技、満島真之介さん演じる森由人と白岩の対比、北村有起哉さん演じる原浩一郎の背中が映るタイミングの笑いなど、本当にどれをとってもよくできた良品でした。(完)


www.eurospace.co.jp

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